Fiction Factory

ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
姉妹
 不安定な吐息が、口から洩れる。女は石畳の上を、裸足で駆けていた。石片が
皮膚を破り、彼女の足を赤く彩っていく。その右手に女の肩にも満たない幼い少
女の腕が絡みついている。少女は女の妹だった。

 姉妹を追って、銃声が駆ける。薬莢の臭いが散らばり、足元を砕いているのを
姉妹ははっきりと感じていた。泣きわめく少女を引きずり、振り向きもせずに女
は走る。乱れた黒髪が、女の頬に張り付いて離れない。

 「待て」男が、姉妹の行く手を阻む。両腕で支えられている黒い鉄筒。男は銃
身を姉妹へ向けた。女は立ち止まり、男を睨みつける。「どいてください」女は
静かに、けれど強く男に立ち向かう。女の手には武器一つなかった。

 「おまえ、そいつをどうするんだ?」男は一切その手を降ろさない。銃を向け
たまま、女に近寄り、その鉛臭い鉄の塊を女の体に這わせた。太股から腰へ、腰
から胸の中心、そして喉を伝い、顎の下へ。男の手は、女が発する振動を読み取
る。鼓動による震えとは別の、恐怖による震え。男は女の恐怖を堪能し、にやに
やと冷ややかな笑みを浮かべた。

 「往生際が悪いねえ。この、裏切り者が。死にてぇって言うんなら、俺が手伝
ってやるぜ?なあ?野郎ども」事の次第を見届けていた周りの兵士が、男の言葉
に反応して再び銃を掲げる。女は舌打ちし、妹の腕を離した。「逃げなさい!!」
あらんかぎりの力で叫ぶ。しかし、妹は女の腰にすがりついて泣きわめいた。

 「逃げなさいって言ってるでしょ!」女は腰にまとわりつく妹の両腕を力づく
で引き剥がし、背中を押した。よろよろと前に押し出された妹は押された拍子に
強かにひざを打ち付けて転んだ。泣きながら姉を呼んだ。何度も、何度も。

 それから先は、無音の世界だ。女の体から液体が噴き出し、妹の顔に降りかか
る。一番近くにいた男は、笑いながら女の頭を鷲掴みにしている。綺麗に整った
白い表皮はみるみるうちに蒼くなる。赤く色づいた唇から、血の気が失われて行
く。力なく男に寄りかかり、白かったワンピースがぼろぼろの布切れになる。

 緑に囲まれた黒い石畳は、女の赤と白に飾られて、不気味に鮮やかな風景を切
り出した。少女に音は届かない。その双眸に映る惨劇が、少女の心を壊していく。
再び少女に届いた音は、少女自身の声だった。

 何も知らない少女の生まれた、些細な些細なできごとだった。世界にとって、
なんてことはない小さな出来事は、たった一人の少女にとって、とても大きな出
来事だった。

 けれど少女はもういない。あの頃の少女はもういない。誰も知らない物語。一
人の少女の物語。知らない世界に取り残された、迷子の迷子の少女の始まり。
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