Fiction Factory

ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
真実
 急に呼び出された。夕方もそろそろ終わりかけている。カラスの鳴き声は……
いや、聞こえるほど静かな場所でもない。耳に届くのは足早に歩く革靴が地面を
叩く音。そして臭い大きなゴムの塊がアスファルトを押しつぶす騒音くらいだ。
そんなものが耳をふさいで、とてもじゃないがカラスの鳴き声など聞こえる余裕
はない。待ち合わせの場所には、私の方が先に来ていた。そうはいっても私が早
過ぎただけだ。

 「早いね」ぼおっと道の向こうに焦点を合わせていた私の後ろから、呼び主が
声をかける。思わずびくりと肩が揺れた。「あ、うん。それで、どうしたの?」
呼び出されることはいつものことだし、相手が遅れることも承知済みだ。

 「ちょっとね。じゃ、お店行こう」想定内だ。私たちは行きつけの店で腰を落
ち着け、メニューも店員に任せた。「で?」淡いオレンジ色の明りの下で、コー
ヒーが喉を焼く。「うん?」言いづらそうに目が泳ぐ。「いや、あなたが呼び出
したんじゃない」飽きれてため息が出る。

 「いや、ごめんごめん。ほら、この間の件覚えてない?」ああ、先週の。頷い
てもう一口コーヒーを含む。「それでさ、結局断ったんだ」その声音にはかすか
に悲しみの色が浮かぶ。「聞いてる?」自分でも気付かないほど、沈黙していた。

 「うん。びっくりしただけ。なんで断ったの?いい話だったのに」動揺を胸に
隠して、コーヒーカップの持ち手をぐるりと反対側に回す。居心地悪い。「どう
してだと思う?」答えを求めてくる。なぜ、私に聞くんだ?

 「知らない。こっちが質問してるんだから、先に答えたらいいじゃない」違う。
そうじゃない。そうじゃないけど、どうしたらいいのかわからない。「気付け、
ばか」立ち上がって出て行ってしまった。私は、止めなかった。止める資格はな
いと思ったから。

 私もこれ以上いる理由がなかった。だから店員を呼んで勘定を済ませ、重石に
つぶされる体を店から引きずり出した。まだ、いた。あれから5分は経っていた
はずだが、まだ店の前にいたのだ。

 「なんで、泣いてるんだ。なんで、止めないんだ。なんで、止めてくれないん
だ。知ってるくせに。ひどいじゃないか」私の声は、音を失って喉から先に出て
いくことができない。声は嗚咽になりかわり、肺が激しく空気を求める。

 「いいか?いい話だろうがなんだろうが、おまえに死ねなんて言えないんだよ」
私の肩を力強くゆする。「でも、そんなことしたら」それでも私は否定した。そ
うしなければ、私が私を保てない。

 「もう立派な裏切り者なんだ。これ以上どうあがいたって死ぬしかないのなら
一緒にいることの方が、大切だと思う」

 そして、私たちは誓った。たとえ裏切り者でも、ずっと一緒であることを。彼
女と私は、地下室の扉をくぐる。この先の運命を、紡げないと知っていても。二
人でずっと、共にいられると信じて。
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