Fiction Factory

ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第31話
 服を乾かした時に気付いたのだが、ポンチョに空調機能が付いていたことをすっ
かり忘れていた。イリーがそのことを知っていたのかどうかはわからない。それ
を脱いだら、思ったよりは寒く感じなかった。どうやら暑い砂漠の中で涼をとる
ために温度調節したまま着ていたのが寒さの直接的な原因だったようだ。

 そうこうしているうちに服も乾き、歩いているうちに水たまりは浅くなり、つ
いには見えなくなった。相変わらず明りなくして前進はできないほど真っ暗だ。
それでも景色の違いがはっきりとわかる。

 岩だらけの景色には違いない。違うのは、あのとき見た景色に似ていることだ。
あのとき、私がエニアの手から離れて、ラギに出会うきっかけになった――あの
場所に。

 あれだけ遠回りして、東棟の地下牢に私たちはいた。

 よく似ているだけ?並んだ牢獄、そしてナンバープレート。恐ろしいほど黒々
としたあの床と壁。ナンバープレートの中に、ナンバー0を見つけた。すべて、見
覚えがあった。やはり、間違いない。

 「ねえ、覚えてる?」イリーが振り向いた私の両肩に手をかける。ポンチョ越
しだというのに彼女の手に熱がこもっているのを感じた。「あなた、ここからエ
ニアに落とされたってこと」落とされた?あれは完全に不可抗力だ。エニアに非
はない。思わず顔にしわを寄せる。

 「そんな怖い顔しなくたっていいのに。仮にエニアがわざとやったんじゃなく
てもあの子の報告はそういうことになってるってだけ。信じるかどうかは、あな
たにまかせるけど」その声にはかすかに嘲笑が混じる。私は私で、疑問が浮かぶ
ばかりで、答えは出ない。

 「いずれにせよ、あそこであなたたちが捕まったってことは落ちたことには違
いはない。そう、ここはあの場所。足元を見てみたら?」にやにやと嫌な笑顔を
浮かべて手を外した。

 足元は、すっかり消えている。そして、気づいた。「あの」その暗い床を見つ
めたまま、声をかける。「なあに?」面白そうに答えるイリー。「ここのナンバ
ー0には、誰かいたんですか」イリーは答えない。しばらくの沈黙。顔を上げる
と、無表情のイリーがそこに棒立ちになっていた。

 「何か、知ってるんですね」自分の耳を疑うほど、冷めた口調になっていた。
「知らない方が、いいことだってある。これは、そのひとつ」ほんの少しだが、
イリーに動揺の色が見て取れる。

 「私にかかわることですか。それとも、エニア?」その問いに、イリーは首を
横に振るにとどめた。答えられないということか。「なぜ、私をここに連れてき
たんですか」質問を変えた。どうせナンバー0については、もう答えるつもりは
ないのだろうから。

 イリーがあたりを見回して答える。「ここに、いると思ったから。まだいな
いようだけど」私たち2人以外誰もいないことを確認して、イリーは小さくため
息をついた。そして、再び歩き出す。

 進んでも進んでも、誰も見当たらない。静かだ。とても静かだった。異様な
ほどに。吐息さえも、耳に届かない。まるで人がいない世界に飛び込んでしま
ったかのよう。

 「ああら、やっぱりいるんじゃない」無音の静寂を打ち破ったのは、イリー
だった。私たちが来た反対側の廊下の陰に、人影がうごめく。ペンライトが、
足元を照らし出す。

 「お久しぶりね、エニア?」
関連記事
Comment
≪この記事へのコメント≫
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する
 
Trackback
この記事のトラックバックURL
≪この記事へのトラックバック≫
Designed by aykm.