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ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第29話
 甲高い風の音が響く。穴のあいた岩の隙間から抜ける音だ。今回は夢も見ることなく
深い眠りについていた。次第に視界が晴れて、意識がはっきりしてくる。目に入ったの
は例の建物ではなかった。

 「起きたの?」背後からイリーが優しく声をかけてきた。「はい……ここは?」ごつ
ごつした固い岩の上に、申し訳程度に広げた毛布が私に被さっている。手首にかかって
いた重みも消えていた。手足は自由に動かせる。ただし、それ以上の状況はわからない。

 「説明すると面倒なことになるの、今は聞かない方が身のためね。ただ、あなたは私
の提案に乗ったんだから、ちゃんと利用させてもらう。あのとき、もし断っていたとし
ても私はあなたをただゼプトに返していただけだけど、きっとあなたは後悔してたはず」
実際、その通りだったかもしれない。とはいえ、ゼプトに私の身が渡ったところでどう
なっていたかなんて、その時の私に予想ができてただろうか。

 「わかりません。ゼプトは話そうとしませんでしたので」彼に聞いてはいないが、エ
ニアと同じく諜報部だ。そうそう簡単に口を割る真似はしないだろう。「そうでしょう
ね」間を置かずに頷き、私のそばでかがむ。

 「彼はよくわからない」肩をすくませてみせる。ゼプトの部下だと思っていたが、彼
女がよくわからないと評する理由など知るすべもない。「大丈夫なんですか」とにかく
状況を知りたかったのもあって、そんな質問をした。彼女の先ほどの発言からしてもど
こかしらから監視があっておかしくないと思ったからだ。一瞬、イリーはきょとんとし
ていたが、すぐに表情を戻す。

 「ああ、大丈夫。盗聴器も盗撮カメラもここにはないから。ここは……秘密の場所、
ってところかなぁ。はっきり言って、それでも長時間いられる場所じゃないけど」どう
やって女一人で私をここまで連れてきたのかは知らないが、それなりに長時間経過して
いるようだ。

 周りは薄暗く、時間はよくわからない。明りも乏しい岩の中にいるらしいとしか、見
当もつかない状態だ「ここがどこか、教えられないんですか」姿勢を正してイリーに向
き合う。穏やかな表情に髪の毛が纏わりついていた。「教えたりしたら、私が消される
から。あなた……本当に知らないのねぇ」彼女の言い分が正しいとしたら、ここは軍に
も知られていないような場所なのか。そんな場所がすぐそばにあるとは考えにくいが。

 「これから、どうするんですか」肌寒さに身震いがする。「ここを下りる」イリーが
指差したのは、岩場の奥だ。ここよりさらに暗い。「私も知りたいの。あなたが先導し
なさい。どうせ一本道だから」私を立ち上がらせると、背中を押した。「あと、これも」
回収されてしまっていた服やら身の回り品だ。ナイフまで渡された。それも、ゼプトに回
収されていたものだ。

 「どうやってこれを?」ゼプトとイリーは、おそらく同部隊に所属しているはずだ。
ゼプトがイリーをどう評価しているか知らないが、これをイリーに最初から持たせて
いたとは考えにくい。「ん?ちょっとくすねただけ」軽く流した。「ほら、先に行っ
てよ。私は戦闘苦手だし、あなた戦闘部隊でしょ」

 それもそうだ。服を掴みあげると、中から身につけていた時計が落ちた。捕まって、
外に出てから1日は経っていない。だが、もう昼に近い時間ではあった。袖広のTシャツ
にカーゴパンツ、ブーツを身につけ、ナイフを腰に引っかける。それはいまだに手に馴
染んでないものだが他に持っていないのだからこの際仕方がない。この上からポンチョ
を被る。この格好をすると、嫌でもラギを思い出さずにはいられない。

 小銃の方は弾切れだったそうだ。そんなに使った覚えはないが、彼女が私を警戒し
ていないなんて、誰が断言できる?
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