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ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第26話
 重い扉が開くと、立っていたのはあの男ではなかった。明りがついていない
のでよく見えないが、女であることはわかる。「あの子はどこ?」相手は笑っ
て「知りたい?」女は私の手首に冷たい金属をあてがった。瞬間、体が跳ねる。

 「そう、だったら私の言うこと、大人しく聞きなさい」かちりと音を立てて
重い手錠が私の両手首をしっかりと抑えつけた。そして、手錠の間にある鎖を
引いて、無理矢理扉の外へ連れ出そうとする。「どういうことです?」手錠が
こすれて痛い。

 「自己紹介が遅れてたんだった」私の前で立ち止まる。後ろ手に拘束されて
いたので、バランスが取れずによろけた。「私、イリー・セリオール。お友達
がどうなってもいいのなら止めないけど。何も言わずについてきた方が身のた
め……ううん、私にはあんな子どうでもいいの」イリーは振り向きもしないで
再び手錠を持つ手に力を入れて、私を引きずっていった。嫌な予感は、当たる
ものだ。

 外へ出ると、朝日がまぶしくて目がくらむ。それでもイリーは容赦せずに私
を建物の中に押し込んだ。「あなた、ここがどこだか知ってる?」どこか挑発
的な喋り方にだんだんとイライラしてくる。だからと言って両腕の自由が利か
ないこの状態では不利もいいところだ。私は彼女の問いかけに、首を横に振った。

 「まあ、知らなくて当然でしょ。それに、あなたのお友達なら私もどこへ行
ったか知らないの」知らないって?「待って、いや……約束が違います」怒気
のこもる声だということは自覚していた。「私は私の仕事をするだけ」イリー
はまた、鼻で笑ってみせる。すっと通る鼻筋は美人に入る部類だ。性格さえよ
ければさぞ男どもに人気があることだろう。濃いブロンドの髪が、すぐ後ろに
立つ私の頬をかすめ、灰色の瞳が面白そうに私を貫く。

 ただ、すでに彼女の顔を見るのも嫌になっていた。それで顔をそらし、今度
は建物に目を向ける。そしてようやく私はこの場所がどこか気づいた。エニア
との待ち合わせ場所だ。とすると、この地下はあの牢だ。床が抜けて、あの後
一体どうなったのだろう?ラギのことも心配だ。

 「何よそ見してるの」少しイラついた声が横から響いた。「私が特別に面倒
見てあげる、だから感謝しなさい」そう言って、イリーが開いたのは私が入っ
たのとは別の扉だ。東棟の中央に巨大な柱があり、そこに入るように扉がある。
私が入った扉とちょうど真反対にその扉があった。最初に来た時、そこに扉が
あったことには全く気付いていなかったのだ。

 イリーが扉に手を触れる間もなく、ゆるゆるとそれは開いた。相変わらず、
石造りの東棟には不釣り合いな設備だ。「何をするつもりですか」心なしか
不安で声が震えている。エニアがここにいるかもしれない。生きていてほし
い。私がここにいると、伝えたい。「そんなの、私の口から言わせたい?」
彼女の嘲笑の目を私はじっと見返してやった。「大丈夫、心配しなくても御
想像通りにしてあげる」彼女の言葉に、全身の毛が逆立つのを感じた。

 中に入って見ると、エニアとの待ち合わせに使ったときの階段とまるで雰囲
気が違うことに気づく。階段は、石畳などではなく銀色の金属パネルが敷かれ
東棟の外観などどこにも感じさせない。それに、電気もついているし空調も効
いている。

 本当に、ここはあのときの東棟と同じ場所なのだろうか。 
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