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ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第24話
私は沈んでいく。上も下もわからない。息苦しく、暗くて寒い。遠くから静かに
水が打ちつける音がした。ひんやりとした誰かの手のひらが私の肩に乗っかる。
うなじに吐息がかかった。まだ闇に慣れていないのでよくは見えないが、私より
は小さな手だ。いつのまにか、息苦しさはなくなっていたものの、それでもどこ
か浮遊感は残る。

「助けに行くの?」ああ、まただ。「……一体、誰なんだ?」質問に質問で返し
た私に、声の主は溜息をついて肩から手を下した。そして背後から再び腕を回し、
今度は首にすがりつく。「もう、気づいているでしょう?知っているのでしょう?」
あの頭痛、そして吐き気は感じなかった。振りかえってみる。少女の顔は、やは
り見えない。

「助けに行くのね」耳元でささやくように少女は言った。私はそれに頷いて、
再び前に向いた。「エニアは私の、私を……」なぜエニアを助けに行くか、私に
答えがあるとしても、どれも嘘のように聞こえてしまう。

「もう、知ってるんだろう?」答えを言い切る前に、そう重ねた。少女は答えず、
吐息だけが私の肌を掠める。「でも、私は知らない。一体おまえは何者なんだ」
それには小さく笑い声をあげた。

「何がおかしい?」少し癪に障った。「あなたが知りたいのは、わたしの名前?
それともひととなり?」笑いながら、少女は背中から離れた。「じゃあ、名前」
本当はどちらでもよかった。だが、少女はそれに対して黙り込んだ。

「なんだ?答えられないのか?」無言の間が居心地悪い。「じゃあ、あなたの
名前は?」逆に聞き返された。「私は……」またか。またなのか。私の名前は
エニアがつけたあの名前だけだ。上からつけられた名前はただの記号だ。あれ
から結局、私の名前は階級で呼ぶことになっただけで、名前にはならなかった。

「あなたとわたしは、同じ理由」それが、少女の答えだった。「どういうことだ?」
少女に対して、疑問ならたくさんある。ただ、それを訊ねる時間はあまりない
ような気がした。

「どういうことか、知りたいでしょう?だから、あなたはあの子を助けに行っ
て、そして知ればいいの」だんだんと少女の声にノイズが混じる。彼女が話す
たびに、ザアザアと嫌な音が。

「今知っていいのは、わたしのことじゃない。わたしのことを知ろうとするの
はいけないこと。あなたがわたしを知ってしまえば、きっとあなたは壊れてし
まう。そうなってしまえば、あなたはあの子を助けられない」それで、昨日の
夜の夢を思い出した。

あの夢で、私は何を得ただろう?言い知れない恐怖に震える体。そして痛み。
「私はそれでも、知らなければいけないと思う」そう思う根拠は何もない。
ただの意地だ。

「どちらにせよ、わたしにはできない。あなたの望み通りに、なんでもすると
言った。でもね、どうしてもできない。あなたが気づくまではわたしからは何
もできない。どうしたらあなたが知ることができるのかは、そうなってみれば
きっと……」

何もできないというのなら、私は一体何を知ればいいというのだ。私が一番知
りたいのは、この少女だ。私と同じ理由で名前がない少女だ。「なら、私は何
を知るべきだというんだ」自分の握りこぶしが、手のひらに食い込んでいくの
を感じた。

「きっと……」そして、少女の声はふつりと消えた。もう、耳に届くのはノイ
ズだけだ。再び、息苦しさが戻ってきていた。浮遊感は消えて、湿ったシーツ
に横たわる自分の姿が、銀色の天井にうっすらと映し出されている。

外はすっかり暗くなり、幾多の星が頭上を飾る。汗で濡れた白い寝間着は、べ
ったりと私の体に張り付いていて冷たい。 四方を特殊な鉄板に囲われたこの部
屋で、私はそうして目覚めるのだった。
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