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ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第22話
転がっている小さな青い玉を拾い上げる。あれだけの火力にまかれていたはずなの
にひんやりと冷たい。ガラス玉のように固いが、氷のように溶けたりはしていない
ようだ。「あんまり触ってると低温やけど起こすよ。さっさとしまいなよ」ラギは
その不思議な玉を私からそっと取り上げて革袋に放り込む。両腕は痛々しくただれ
ていたが、ラギは気にすることもなく笑ってみせた。

「なーんにも知らないんだね。あれ、病気のアイスドラゴンだったんだよ」やけど
に軟膏を塗りながら、教えてくれた。あれほどのやけどが軟膏と包帯だけで治ると
は思えないが。「どおりで収入高いと思った。予備の水筒袋持ってきておいてよか
ったわ」そしてあの青い玉はアイスドラゴンの力を制御するもので、怪我の治療に
使うのだと言う。1つで二千ダカットもするというのはあとで聞いた話だ。

「そのやけど、治るのか?」あまりに酷いやけどでところどころ肉が見えてしまっ
ている。「あ?大丈夫大丈夫」鞄の中から白くうごめく物が飛び出してきた。「こ
いつでなんとかなるからね」白いものは、あの猫だ。暫く見ないと思ったら、ずっ
とラギの鞄の中にいたらしい。

「なんでそんなところに……」私の感想をよそに猫はラギの腕に体をなすりつけ甘
い声で鳴いた。「なんでって、鞄はもともとこいつ専用にしてあるし」猫の代わり
にラギが答える。どうも下の世界の技術がどこまで発展しているのか読みづらい。
街の見かけは私の見ている現在のものより格段に古い様式なのに、よく知った機能
がいつの間にか組み込まれている。

そうして応急処置を済ませると荷物の中に猫を戻して再び砂漠を歩き始めた。まだ
日は高いが、こうして体力を消耗してしまうと一刻も早く休憩したくなる。そのた
めには、こんな砂漠のど真ん中では都合が悪い。荷物になるからと水も最小限だっ
たから、という理由もある。何にせよ、無理をしたものだ。

帰りの道中、私の方はラギの機嫌が直ったものだと思っていたのだが、いつのまに
か彼女は私から視線を外して歩いていた。一体なんだと言うんだ。ドラゴンの一件
で腑に落ちないことがあったから考え事をしていたわけじゃなかったのか?

「ラギ、どうした?」私の問いかけで始めて自分が考え事をしていることに気づい
たのか「え?何が?」私の顔を見て目を丸くした。「あ、あー。いや、ほら、ドラ
ゴンの依頼さ、あたしたちみたいなのにこんな高い物託すって、よく考えたら変で
しょ?」言われてみれば、そうだ。ドラゴンから採った玉を売りさばいた方が契約
の収入よりも格段に多く儲けられる。

「うーん、もしかして私たちがいない間に何か……とか」何の気もなくそう答えて
みた。しかし、ラギには冗談に聞こえなかったらしい。「だったら……まずいこと
したかも……」真面目に考え込むことになってしまった。どうしてまずいのか、私
たちはただの客人で、あの街で定住していたわけでも名を馳せていたわけでもない。

「考えすぎじゃない?私たちがいないくらいでどこに利点があるっていうんだ?」
ラギは答えなかった。えてして嫌な予感というものはよく当たるもので、この時も
例に漏れることなくそうなった。

ただし、気づいたのはだいぶ後の話だ。少なくとも、街に着くまでは。砂漠を歩く
間は気まずい雰囲気を打破するために二人して無理に話を続けた。ラギは何を知っ
ているのだろうか。私はそればかり気にしていた。

それでも彼女は気づかせるふうもなく話をそらしていった。この世界のゲームやら
武器、旅に必要な装備や手当の方法。それらが話のメインで、手当ての方法なんて
ものは私だってある程度は知っているが一応この世界独特の病気やら怪我について
は真面目に聞いていたと思う。武器の方はほとんど知っている話だった。

話のネタが尽き、再び無言にはなったものの行きの時よりは居心地の悪さを感じな
いで済んだ。街まであと一キロメートルくらいになると、砂漠の温度が少しずつ冷
たさを取り戻していくのが分かる。そうして一歩一歩街へと近づいて行く。

そして、目の前には見覚えのある景色が広がっていた。赤レンガの床に、商店街が
並び、その上を巨大な屋根が覆っている。あの下へ入れば快適な買い物をすること
ができる。作りは古風だが設備は現代的な変わった街。

見つけてすぐに、これがその街だと分かった。見つけてしまったのだ。

もうもうと黒い煙を上げながら、炎に包まれるあの街を。

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