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ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第21話
煌々と燃え盛る炎の中から、一対の翼が広がった。それなのに、ドラゴンの原型が
分からない。まるで、炎がドラゴンを飲み込んでしまっているかのような、そんな
光景だ。

地響きにも似た咆哮が、私の鼓膜を、胸を、震わせる。「なん……こいつはなんな
んだ!?」私の問いには答えずに、ラギは一歩前に出る。「ああ、そういうことか
……なるほどね」口元にうっすら笑みを浮かべているが、目は笑っていない。「何
一人で納得してるんだ!」叫ぶ私の口を塞いで、静かにしろ、と口だけ動かすラギ。

「落ちつきなよ。説明はあとでするから。アイリス、銃の扱いは?」私の口から手
を離し、こちらを向く。「自信はない」我ながら情けないことに小銃はあまり触っ
てこなかった。接近戦なら刃物のほうが得意だ。

「じゃあ、あたしがあいつの目を狙う。あんたは合図したらあいつの首を狙って。
刺す場所は見たらわかる。勝負は一回きり、失敗したら命はないよ」失敗したら?
だって?そんなことは聞いていない。ラギは昨夜言っていた。ちっちゃいドラゴン
狩るだけで二百ダカット。このドラゴンが、小さいとはとても思えない。

「よし、決まった。あたしが間合いに入るまではあんたはここで待機。あたしが
先行する」小銃を構えてドラゴンの背後――正確には両翼が生えている側――に
ゆっくり近づく。私は十五センチほどのナイフを片手に砂の上にうつ伏せになっ
た。

靴を間に隔てている足でさえも灼熱の砂漠は容赦なく焼いてくるのに、ポンチョ
の上に置いただけの形になっている腕はそれほど熱くはなかった。それでも、顔
に砂が近付いていると熱気で頭が朦朧としてくる。

間合いまであと数歩、というあたりになったとき、ラギは小さく息を吐いて一気
にドラゴンに駆け寄った。ドラゴンはようやく気付いたのか、ラギの方へ向いて
青い炎をまき散らす。炎が当たった砂は赤く沸騰したようにぼこぼこと隆起した。
仮にあの青い炎に触りでもしたら、やけど程度では済まないだろう。

顔と炎の間にほんの少しだけ隙間を開けるようにラギはうまく避けている。だが、
動きの速いドラゴンはラギに休む暇も与えない。武器類は動くのに邪魔になる。
必要最低限だけ装備しているので、ラギのナイフと私の小銃は鞄の中だ。

ラギは苦悶の表情を浮かべて熱い砂の上を華麗に舞った。時折、炎が体の一部を
かすめそうになる。炎に触ってもいないのにポンチョの一部が溶けている。それ
が遠目にもわかるのだ。砂漠は平地で、遮るものは何もない。それを私はタイミ
ングだけを見逃さないように、ただ見ていただけだった。実際は、ナイフを投げ
ることもできた。でも、そうはしなかった。

ナイフは一人一振りしかない。そのうえ、ドラゴンの本体はどういう形なのかも
よく見えない。ラギに気を取られている間に少しずつドラゴンに近づく間も、ま
ったく見当がつかないのだ。できるかぎりけが人を減らすことが先決。ナイフを
投げてしまえば、こちらに注意が向く。

私はあのドラゴンについて何の知識もない。場合によってはラギを今以上に危険
な目に遭わせる可能性もある。もどかしい時間だけが、刻々と過ぎていった。感
じた時間は一瞬のようでもあったし、何十分のようでもあった。

そして、銃声。金属に当たったような、甲高い音がそれに続く。「アイリス!!」
その声を合図に私は走った。再び弾丸が数発、小銃から飛び出す。ドラゴンの体
を纏う赤い炎が、ガラスのように薄く固まって、バリバリと砕け、弾けた。

ラギへの注意は完全に私側に向いている。「はやく!」ラギの叫び声が届く。分か
っている。ナイフを手にドラゴンに飛びかかった。もう炎はほとんどなく、赤黒い
しわだらけの皮膚が、私の目の前で脈打つ。皮膚の一か所に青い光があるのを見つ
けた。

躊躇することもなく、私は青い光めがけてナイフを突き立てたのだった。ドラゴン
は、吼え猛りながら砂地へどさりと倒れこむ。私はと言えば、呆然とドラゴンの最
期を眺めているだけだ。しばらくは、息をすることさえ忘れていたように思う。

「任務完了……ってね。ほら、アイリス。なーにぼけっとしてんの。これ持って帰
らないといけないんだから、あたしの鞄持ってきてよ」やけどだらけの両腕に、ラ
ギはもはや用をなさなくなったぼろぼろのポンチョを引っかけている。

「ラギ、先に手当てしないと……痕が」そうは言ってみたが、ラギは首を横に振っ
て、はやく鞄を持ってくるようにと促した。ラギの鞄の中には空っぽなのに重量の
ある、手のひらサイズの革袋がひとつ入っていた。と、ここで頭がしっかりしてき
たのか疑問が浮かぶ。

「待ってよ。何を入れるって?」こんな小さな袋に、あの大きなドラゴンを入れる
スペースは見当たらない。「そこにあるでしょ。青い玉が」言われるままにさきほ
ど倒したドラゴンのそばへ行ってみると、青く光る直径三センチほどの玉が、砂の
上にぽつりと乗っかっていた。

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