Fiction Factory

ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第20話
「アイリス!」力強く両肩を掴まれて痛い。「ん……痛い、ラギ」私から視線を外
さずに背中へ片腕を添えて抱え起こす。力が入らない。あの夢の余韻だろう。ラギ
より先に目が覚めていたはずなのに、私の体は床の上だ。

「……まったく、どんだけ寝相悪いわけ?」私を支えてベッドに腰掛けさせる。
「私、何してた?」覚えていない。汗でべったり貼りついた黒髪をからげて、思い
出そうとした。だが、そもそもどこまでが夢で、どこまでが現実だったのか。それ
さえも私には自覚がない。

「あ?覚えてないっての?まあ、寝相のせいじゃなさそうだね、なんか話せること
ある?」椅子を引っ張り出し、背もたれに両腕を載せる。両腕に顔をうずめながら
私に体を向けた。目だけは明後日の方向を向いていたが。「寝相のせいじゃないこ
とは確か、ってくらいまで」私自身も答えは出せない。どう答えるべきだった?

「いちおーね、あんたが叫んだからあたしは起きた。で、そしたらあんたが床で寝
てたわけ。それくらいしか見てないよ、あたしは」それだけ言って椅子から立ち上
がる。「まあいいけどね。ほら、朝ご飯!」ラギに引かれて部屋から出るときに窓
が目に入った。窓は、しっかり閉じている。

今朝方の悲鳴について、主人からあれこれ言われたがラギが適当に話を作って流し
てくれた。彼女の話では私は天井に大きな蜘蛛を見つけて驚いて悲鳴を上げて失神
したということになっていた。虫類はあまり得意ではないがそこまで酷くはない。
そんなことを弁明したところで話がこじれるだけだから、何も言わなかったが。

朝食の後、再び部屋に戻ると、ここでやっと着替えに支度を始めた。ナイフに小銃、
水筒。それに、予備の弾が数箱。ラギの所持金ではこれが精一杯だったようでどう
にも心許ない。ラギは私の荷物に加えていくつかの薬品と包帯の入ったポーチを鞄
に詰める。

場所は、ここから五キロメートルほど離れた地点だ。それほど遠くはない。商店街
を抜けた先を私たちが来たオアシスとは逆の方向へ歩く。他にも移動手段はあるが
仕方ない、私たちはほぼ無一文状態だったからだ。

歩みを進めるにつれて、どんどん太陽が高くなっていく。日差しは熱く、足元の砂
地は不安定で、ブーツの上から皮膚を焼いてくる。反対側から来た時は、まだドラ
イドの影響で砂の性質が異なり、それほどまで熱を持ってはいなかったそうだ。が、
今回は勝手が違う。

やけどにも近いくらい足がピリピリしてくるのを感じながら、私はラギに続いた。
その間、お互いに一言も会話をしないで黙々と砂漠を横断する。ラギは時折振り向
いて立ち止まり、私がついてきているか確認した。私が遅いと感じるとしばらく待
って再び歩き出す。

待っているときはどこか思案顔をのぞかせて、私と視線を合わせようともしなかっ
た。私とラギを、沈黙が隔てている。その原因がどこにあるか、私には理解できな
かった。ラギは人が変わったかのように口を一切動かさないし、私に目も合わせよ
うとしない。

とても、居心地の悪い旅路だった。夢の中の少女が言っていたことを思い出した。
私が、あの子――おそらくラギ――とともにいくと決めた、と。けれど、どこへ
行くというのだろう。

あの時の痛みは、熱さは、一体どこからくるものなのか。見当もつかない。現実
になるのは嫌だ。私は、何かを恐れている。自分でも気がつかない何かを。少女
が嘘をついているようには、何故か思えなかった。

だとしても、真実を見ることさえできない。知らず知らず、私もラギに倣って考
え込んでいた。目の端でかろうじてラギの足元を捉えて。

「待って」ラギが私の行く手を阻んだ。静かに、と指を立てる。彼女が顎で指し
示す先には、大人の人間ほどの大きさがある火の塊がうごめいていた。「あれが
今回のターゲットだよ」
関連記事
Comment
≪この記事へのコメント≫
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する
 
Trackback
この記事のトラックバックURL
≪この記事へのトラックバック≫
Designed by aykm.