Fiction Factory

ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
たからもの
 それを見つけたのは、この夏、引っ越しのために大掃除をしていた時だった。
埃をかぶった木箱は、一辺が私の両手分の大きさで、薄灰色の紐が固く締め付
けている。あまりにきつく結び目ができているので、私はカッターで繋ぎ目を
切り離した。

入っていたのは、4つ折りにされたカビが生えて緑がかった手紙が1通。そして、
手のひらサイズの壊れたブローチ。それに、変色してしまった写真が一枚。ど
うしてこんなものがここにあるのか見当もつかない。写真には私が写っている
だけで、手紙も私宛てなのは確かなのに誰からなのかは書かれていなかった。

「何見てるの?」私に声をかけたのは、引っ越しを手伝ってくれている友人だ。
「これ、何だと思う?」私は蓋を開けた木箱を、彼女に手渡した。彼女は綺麗
な黒髪を、汚れないようにヘアゴムでまとめたポニーテールにしている。前か
がみになると、それが小刻みに揺れてその小さめの顔にぺたりとくっついた。

「まだ、持ってたんだ……」心なしか声に憂いを帯びている。私は覚えていな
いけれど、彼女は覚えているようだ。「知ってるの?」なんとなくその時点で、
聞いてはいけないような気はした。でも、聞かなければいけない気もした。

「覚えて……ないんだ?そうか……そう、だよね。だって、あのときは……」
言い淀んで黙り込み、かぶりを振る。私が、思い出さないといけないことなの?
私に何を求めているの?私はそれを、声にはできずにいた。「今の今まで、
知らなかった。こんなものが家にあるなんて。……ごめんなさい」だから、謝
ってみた。それで解決するなんて思えなかったけれど。

「何謝ってるの、もう。覚えてなくて当然だよ。これは……私が、私が勝手に
ここに置いたんだから」うつむいたまま、箱を抱える。どういうことだろう?
「勝手に?……あ」そこまで言って、気がつかないなんて。なんて馬鹿なんだ
ろう?

「もう、あれから10年も経つんだね」そう言って私は彼女から目をそらした。
目をそらしちゃ、いけないのに。「宝物だから。ずっと、宝物だった。壊した
ブローチのことが、どうしても謝れなかった。だから私は、宝物をあなたに差
し出そうとしたのね。あなたは、あのブローチをとても大事にしていたから」
そうして座り込んでしまった。

「どうして?あのブローチは誕生日プレゼントに、あなたがくれたのに。壊し
てしまったのは、私のせいだよ。謝る必要なんてないのに」そう、あのブロー
チには見覚えがあった。けれど、壊したのは私で、彼女はただそれを直すつも
りで持ち帰ったのだ。

「ごめんなさい……。あれね、私が壊していたのね。先に壊したのは私。ピン
がブローチから外れかかっているでしょう?」言われて、ブローチを確認する
とピンの付け根に乾いたノリのようなものの塊がついていた。

「あなたは壊れたブローチをつけようとした。その拍子にボンドでつけただけ
のピンが外れて、道路に投げ出された。そして、ブローチは通りがかったあな
たのお父さんが轢いてしまった。だから、ブローチを壊したのは私のせいなの」
あの時、私は自分のせいで壊れたのだと思っていたから父にやつあたりした。
それはまざまざと思い出すことができる。

そして、ある日彼女が直すから、とそのブローチを持ち帰ったのだ。待っても
待っても、ブローチは帰ってこなかった。そのうち、ブローチをどこにやった
かさえ忘れていった。

「どうしても綺麗に直せなくて、私はせめてもって……これを入れたの。ネガ
も捨てちゃって、馬鹿な事をしたと思った。言い出せなくて、勝手にここに置
いたのね」そうだ。あれからしばらくたって、うちに泥棒が入ったと母が騒ぎ
立てる事件が起きた。なくなっていたのは、私の写真だけだった。

「……もういいのに。それに、どうして、写真なんて盗んだわけ?」ブローチ
なんて、もうどうでもいい。いや、もちろん貰った時はうれしかったし、壊し
たときはショックだった。それでも昔の、10年も前の話だ。

「私の宝物は、一つじゃないといけなかったから。揺れたらだめだと思ったか
ら!」彼女は耳まで真赤になっていた。「それ?どういうこと?」苦笑交じり
に尋ねてみると「なんでもない!」あわててつくろう彼女が、とても愛らしい。

「固く縛ったのは、本当は見せたくなかったの?」彼女はびくりと身を震わせ
た。どうやら図星のようだ。「い、いいじゃない!別に……」

私はこれから、この『たからもの』と一緒に過ごしていく。ここ日本では、友
人でしかなくても。私の『たからもの』は、今もこれからも――たった一人だけ。
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