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ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第18話
見回り品の買い物を済ませて、求職所で簡単な手続きを済ませたころにはすっかり
日は消え入り、眼前に広がるのは閉じたシャッターと煌々と光る街頭。そして頭上
は明りで星はほとんど見えず、月だけがぽっかりと浮いていた。

「……ふぅ、しょーがないなー」痩せ細った財布を睨みつけてラギの口から溜息が
洩れる。かける言葉もない。私のせいだ。今の私にはせいぜい明日の仕事をどう手
伝うか考えるのが関の山だ。

まだラギは私が軍人――といっても、現状は元軍人と言った方が正しいのだろうが
――だと知らない。慎重に動かなければ、ラギを巻き込んでしまう。動きだけでそ
れと分かるかどうかは別として。

「ラギ、私に手伝えることがあったら……」借りを返す、ともなんとなく違う気は
したが求職所の連絡事項が読めなかったのでとにかく訊いてみることにした。

「は?」怪訝な顔を浮かべて振り返る。「もちろんだよ。手伝ってもらわないと、
あたし1人でこんな仕事無理だし。まあ、こんななりでも人を見る目は自信あるから
あんたでも十分できるよ」その顔には疲労の影が差していた。かくいう私も長時間
言葉も分からず引きずられていたわけでラギとさして変わらない状態だ。

「今夜はお昼食べた店に泊めてもらうよ。顔パスでタダで泊めてもらえるの、あそ
こしかないから」笑って私の腕を強く引くと、疲れを隠すように大股であの店へ向
かい始めた。

店の名前は……結局、知らないままだ。

店には閉店と書かれているらしい――シャッターの下りた商店の看板と同じ文字が
書かれていたから――看板が立てられていたが、ラギは気にするふうもなくチャイ
ムを鳴らす。店主はやっぱり、と苦笑しながら手招きで私達を迎え入れてくれ、簡
単に夕食も出してくれた。ほとんど無一文にも関わらず、親切な人だ。ラギだって
負けてはいないのだが。

言うまでもなく悪い気がするはずもない。とはいうものの、やはり後ろめたさもあ
って素直には喜べないところもある。今回は、何かしら考慮があったのかロースト
ビーフとレタスのサンドイッチに例の赤いジュースと具だくさんのスープが出され、
私でも食べられるようなものがテーブルに並べられていた。

その夜、私達はこの先について話し合うということにした。

「そーそー、あんた上から来たんだよね」と、ラギがベッドに腰掛ける。店主があ
つらえた部屋は大きめのベッドひとつに人ひとり分の大きさのテーブル、そして猫
足の椅子が1脚だけ置かれた質素でこじんまりとしたものだ。

「そういうことになるね」テーブルを挟んで私は椅子の方に腰を下ろした。「じゃ、
なんとかして上に行く方法を見つけなきゃね。あんたが落ちてきたところが上と繋
がってるのは分かるけど、足掛かりもないとこになんて翼でもなきゃいけないもん」
と、ベッドから降りてその下を探る。口ぶりから察するに、ラギは上に行くための
確実な方法を知らないと言うのか。

そしてラギは何やらごそごそ探ったかと思うと、六角形の大きな黒い板に、木箱を
取りだした。板はたくさんの丸い穴が穿かれている。テーブルの上に板と木箱を置
いて、木箱から白と黒の玉を取り上げ、それを板に並べ始めた。

「それは?」ラギの並べる物体を指す。「これ?アバロンっていうんだ。一緒にや
ろうかと思って」私の顔も見ずに、彼女はひとつひとつ玉を拾っては穴の上にそれ
を載せていく。

「ゲームしてる場合じゃないんじゃない?」私にはラギの行動がまだ読めないし、
エニアの無事が確認できない以上焦りもある。「それに明日のことなんだけど」当
のラギは私の話を聞いていないかのようだ。黒と白の玉を並べ終えて、そちらの方
に目を向けている。

「ねえ、聞いてる?」しびれを切らして声が強まる。「聞いてる。明日はちょっと
遠出になるよ。だから武器も買ったんだ。ちっちゃいドラゴン狩るだけで200ダカッ
ト」それでもやはり、目はボードゲームの上だ。

「普通ね、この手の依頼ならせいぜい1ダカットくらいだから……うーん、上の世界
の価値なら自転車が買えるくらい?絶対これは何かある。悪いけど、付き合ってもら
うよ」ラギは、人を見る目には自信があると言っていた。つまり、私をそういう危険
な仕事に出しても大丈夫だと判断したということだ。

それでも、私は小さくてもドラゴンなんて見たこともない。私が相手にするのはもっ
ぱら人であって、もともとの目的も国防のためだ。それに、あくまで訓練でしかなく
実践で人を殺すようなことまでしたことはない。

「そんな……かいかぶりすぎじゃないの?」消え入りそうな声で呟いて、ラギと一緒
になって盤面を見つめる。ラギは黒い玉を私の手のひらに載せて「ほい、じゃあ先攻
でお願いね。ルールは今から説明する」

そうして、私達は結論もなく日を跨ぐまでの間アバロンをすることになった。

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