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ゲーム実況風プレイ日記&考察中心 常にネタバレ注意
時の残滓 第15話
私は、浅葱色のポンチョを翻しながら悠然と歩くラギに引かれて濡れる草
を踏みしめる。草場からいたるところに岩肌が覗き、その岩の合間合間に
は湿った赤土が溜まっていた。白いワンピースの囚人服はこういう場所で
よく目立つ。倒れていた場所が土の上だったために、白だった原形はあま
りとどめていないのだが。

ラギになぜここにいるのが危険なのか聞いてみたところ、一瞬きょとんと
して溜息をついた。私があの湿地帯について何も知らないことに本当に驚
いていたようだ。

そしてぐるりと視点を回転させると、再び私の腕を引いて歩きながら答え
てくれた。この湿地帯は干潟のようなもので、早く抜け出さないと沈んで
しまうのだそうだ。

緑の草が地面から生えているのに沈むだなんて聞いたことがなかったし、
考えもしなかった。そう思ったが口に出すのはやめておく。私にこの場所
の知識は全くない。だから、大人しく従うに任せたのだ。

歩きながら、ラギの方を見ると長めの丈のポンチョの下から星型の金属で
できた飾りが音を立ててラギの動きに倣う。そうして急ぎ足で湿地帯を
抜けたころにはもう太陽は真上から容赦なく日差しを浴びせかけていた。

「さ、て…アイリス、後ろを見てごらん?」

足元は砂地だ。湿地帯のすぐそばが砂漠だなんてまるでオアシスもいいと
ころで、実際に後で知った限りでは、この湿地帯は砂漠の中央にぽつりと
浮かぶ形で位置していた。

ラギについて行くので精一杯だった私は湿地帯を抜けて初めてまともに振
り返る。
何もない。
湿地帯があった場所は、何もなかった。

「あそこはね、砂の海の上にある干潟――ドライドなんだ」

つまり、ここでは砂が海のように働くのだ。私は何もなくなった湿地帯――
ドライドを眺めて呆然と立ち尽くすほかなかった。私がここに来た原因は
あそこにあったのではないだろうか。不安が私の乾いた体を血潮のように
駆け巡る。

「あー、ねえ。アイリス、喉乾かない?それにその格好目立つし。買い物
しよう、ほら?大体、あんなところで丸腰で生きてたこと自体びっくりだ。
きっとあんたには幸運の女神とかそういうのがくっついてんのさ。よくわ
かんないけど帰る場所くらいは見当ついてんでしょ?」

言葉に詰まった私に向かって、なんて軽いことを言ってくれるんだろう。
それでも、確かに私は帰る場所を思い浮かべていた。エニアがいた場所、
私が落ちた場所を。でも、あそこはどうなったのか、エニアは生きている
のか、私は今どういう状況にいるのか、それは見当もつかなかった。そ
れで私は、こう答えるにとどめた。

「帰る場所はわからない。ラギ、あなたには迷惑かもしれないけど私は
ここをよく知りません。だから、もう少し付き合って欲しいんです」

賭けだ。エニアがどうなったのか分からない以上、私は生きている限りで
きることをしなければ。

「だから、付き合ってやるって。あたしがそんな酷い人間だと思われてる
んなら心外だね!」

ラギは私の両肩を思い切り掴んでにやりと笑った。掴まれた肩がちょっと
痛い。なんて力だ、とは思ったが私も笑って返す。もし仮に、ラギが信用
の置けない人物だとしても、私はしばらくの間、彼女に頼らざるを得なか
ったから。いや、本当のところ、そうは思っていない。理由はわからない
が、信用する気になってしまったのだ。

「ところで、ちょっと気になったんだけどさ」
「なんでしょうか?」
「もっと普通に喋れない?」

それで、そうすることにした。ラギは私より少し年下で、いつも白猫を足
に纏わりつかせて歩く。私の、水先案内人。
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